創世記第13章:アブラハムとロトの選択 – 信仰と繁栄の岐路

創世記

はじめに

紀元前1900年頃、カナンの地。砂埃を巻き上げながら、一団の隊列がゆっくりと進んでいました。先頭を行く髭面の男性は、75歳のアブラム。彼の背後には妻サライ、そして甥のロトが続きます。彼らはエジプトでの一時滞在を終え、再びカナンの地に戻ってきたところでした。

創世記第13章は、このアブラム(後のアブラハム)と彼の甥ロトの物語を描いています。この章では、彼らの繁栄がもたらした予期せぬ課題と、それに対する彼らの対応、そして神の約束の再確認について学ぶことができます。

エジプトからの帰還

「アブラムは妻と、持ち物すべてを携えて、エジプトを出てネゲブに向かった。ロトも一緒であった。」(創世記13:1)

エジプトでの滞在中、アブラムは多くの財産を得ていました。羊や牛の群れ、ラクダの隊列、そして多くの従者たち。彼らの行列は、まるで小さな村が移動しているかのようでした。

アブラムは最初に祭壇を築いたベテルに向かいました。そこで彼は、エジプトでの出来事を振り返りながら、神に感謝の祈りを捧げました。「主よ、あなたの導きに感謝します。私の弱さにもかかわらず、あなたは私たちを守り、祝福してくださいました」と、アブラムは心の中で祈りました。

繁栄がもたらした問題

しかし、繁栄は新たな問題をもたらしました。アブラムとロトの家畜が増え、彼らの持ち物が多くなったため、一緒に住むことが困難になったのです。

ある日、アブラムは羊飼いたちの口論を耳にしました。「こちら側は私たちの牧草地だ!」「いや、ここは昔からロト様の家畜が使っていた場所だ!」激しい言い合いが続きます。アブラムは眉をひそめ、この状況を憂慮しました。

アブラムの賢明な提案

翌朝、アブラムはロトを呼び寄せました。二人は丘の上に立ち、周囲の広大な土地を見渡しました。アブラムは深呼吸をし、ゆっくりと話し始めました。

「ロトよ、お願いです。私とあなたの間、私の羊飼いとあなたの羊飼いの間に争いがないようにしましょう。私たちは親族なのですから。広い地が、あなたの前に広がっているではありませんか。どうか、私から離れてください。あなたが左に行けば、私は右に行き、あなたが右に行けば、私は左に行きましょう。」(創世記13:8-9)

ロトは叔父の言葉に驚きました。年長者であり、神に選ばれたアブラムが、自分に選択権を与えるとは。この提案は、アブラムの寛大さと平和を求める姿勢を表しています。彼は自分の利益よりも家族の和を大切にしたのです。

ロトの選択

ロトは目の前に広がる土地をじっくりと観察しました。特に彼の目を引いたのは、ヨルダンの低地でした。

  • 水が豊富で、ナイル川のほとりを思わせる肥沃な土地
  • 農業に適した平坦な地形
  • 「エデンの園のよう」と形容されるほどの美しさ

ロトの心は決まりました。「私はあの低地を選びます」と彼は宣言しました。

しかし、この選択には問題がありました。ロトは自分の目に見える利益だけを考え、神の導きを求めませんでした。また、彼が選んだ地域には罪深い都市ソドムがありました。ロトはその事実を知りながらも、目の前の繁栄に目がくらんでいたのです。

神の約束の再確認

ロトが去った後、アブラムは一人丘の上に立ちました。突然、神の声が聞こえました。

「さあ、目を上げて、あなたがいる場所から北と南、東と西を見渡しなさい。あなたが見渡すその地をすべて、わたしはあなたとあなたの子孫に永遠に与える。わたしは、あなたの子孫を地のちりのように多くする。」(創世記13:14-16)

アブラムの目に涙が浮かびました。神の約束は、彼の寛大な行為に対する報いのようでした。彼は神の約束を信じ、ヘブロンのマムレの樫の木のそばに移動して、そこに祭壇を築きました。

考察:この章から学べること

  1. 他者への思いやり: アブラムのロトへの態度は、私たちに他者を思いやることの大切さを教えています。困難な状況でも、相手の立場に立って考えることの重要性を示しています。
  2. 長期的視点: ロトの選択は目先の利益に基づいていましたが、アブラムは神の約束を信じて行動しました。私たちも、短期的な利益だけでなく、長期的な視点を持つことの重要性を学べます。
  3. 神との関係: アブラムは常に神との関係を大切にし、どこに行っても祭壇を築きました。これは、私たちの日常生活における信仰の実践の重要性を示しています。困難な決断に直面したとき、神の導きを求めることの大切さを教えてくれます。
  4. 平和の追求: アブラムは争いを避けるために譲歩しましたが、結果的に神からより大きな祝福を受けました。これは、平和を追求することの価値を教えています。時に自分の権利を手放すことで、より大きな祝福がもたらされることがあるのです。

おわりに

創世記第13章は、信仰、選択、そして神の導きについて深い洞察を与えてくれます。アブラムとロトの対照的な選択は、私たちに自分の決断がどのような結果をもたらすかを考えさせてくれます。同時に、神の約束の確かさと、信仰を持って生きることの重要性を再確認させてくれるのです。

私たちの人生も、アブラムやロトのように重要な選択の場面に直面することがあるでしょう。そんなとき、この物語を思い出し、神の導きを求め、長期的な視点を持って決断することが大切です。

次回予告

次回は、創世記第14章を学んでいきます。この章では、アブラムが戦争に巻き込まれ、捕虜となった甥ロトを救出する物語が展開されます。平和を愛するアブラムが、なぜ戦いに身を投じたのか。そして、その過程で出会う謎の人物メルキゼデクとは一体誰なのか。アブラムの勇気と信仰が試される exciting な展開をお楽しみに!

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