創世記第12章:アブラハムの旅立ち – 信仰の始まり

創世記

はじめに

紀元前2000年頃、メソポタミアの都市ウルに、アブラムという名の男がいました。彼の名は「高貴な父」という意味を持ち、後に神によってアブラハム(多くの国民の父)に変えられることになります。この名前の変更は、神の約束と深く結びついています。しかし、その変更の時はまだ先のことです。まずは、アブラムの信仰の旅の始まりを見ていきましょう。

神の呼びかけと約束

ある静かな夜、星空の下で瞑想していたアブラムに、神の声が響きました。「あなたは生まれ故郷、父の家を離れて、わたしが示す地へ行きなさい。」(創世記12:1)

この突然の呼びかけに、アブラムは戸惑いました。しかし、その声には不思議な説得力がありました。続いて、神は驚くべき約束を告げました。

  1. 大いなる国民の父となる
  2. 祝福を受け、名が高められる
  3. 地上のすべての民族の祝福の源となる

これらの約束は、後のイスラエル民族の歴史や、人類全体の救済計画にまでつながる重要な意味を持っていました。

アブラムからアブラハムへ:名前の変更の意味

ここで、アブラムの名前が後にアブラハムに変更される理由について触れておきましょう。創世記17章で、神はアブラムと契約を結び、その際に彼の名前をアブラハムに変更します。

  • アブラム(אַבְרָם):「高貴な父」の意味
  • アブラハム(אַבְרָהָם):「多くの国民の父」の意味

この名前の変更は、神の約束がより具体化されたことを示しています。アブラハムが多くの国民の父となるという約束が、彼の新しい名前に込められたのです。しかし、創世記12章の時点では、彼はまだアブラムと呼ばれていました。75歳で子供もいない彼に、この大いなる約束がどのように実現するのか、想像もつかなかったことでしょう。

信仰の一歩を踏み出す

翌朝、アブラムは妻サライに夜の出来事を話しました。サライは最初は半信半疑でしたが、夫の真剣な表情を見て、その決意を理解しました。

アブラムは75歳。人生の大半を過ごした故郷を離れるには、並々ならぬ勇気が必要でした。彼は家族や友人に別れを告げ、持てる財産をまとめました。甥のロトも同行を決意し、一行の準備が整いました。

  • 出発地: ハラン – メソポタミア北部の古代都市
  • 同行者: 妻サライ(65歳)、甥ロト(20代後半)
  • 目的地: カナン地方 – 現在のイスラエル・パレスチナ地域
  • アブラムの年齢: 75歳

隊列が出発する朝、街の人々が見送りに集まりました。「アブラムさん、気をつけて」「早く戻ってきてね」という声が飛び交う中、アブラムは決意に満ちた表情で前を向き、未知の地へと歩み出しました。

カナンでの生活

長い旅の末、一行はようやくカナンに到着しました。見知らぬ土地で新生活を始めるのは容易ではありませんでしたが、アブラムは神への信頼を失いませんでした。

彼は感謝と礼拝の印として、到着した場所に祭壇を築きました。

  1. シケムの地に最初の祭壇を築く – モレのテレビンの木のそばで、大きな石を積み上げて祭壇を作りました。
  2. ベテルの東に移動し、再び祭壇を築く – 丘の上に祭壇を築き、朝夕に祈りを捧げました。

これらの行為は、アブラムが新しい土地でも神との関係を大切にし、信仰生活を続けていたことを示しています。彼の信仰は、周囲の人々の注目も集めるようになりました。

飢饉とエジプト滞在

しかし、カナンでの生活は平坦ではありませんでした。ある年、深刻な飢饉が地域を襲いました。作物は枯れ、家畜は痩せ細りました。アブラムは苦渋の決断を下し、一時的にエジプトへ移住することにしました。

エジプトへの道中、アブラムは不安に駆られました。美しい妻サライが奪われるのではないかと恐れたのです。そこで彼は、サライを妹だと偽ることにしました。この決断は、彼の人間的な弱さと恐れを示しています。

案の定、エジプトの役人たちはサライの美しさに目を奪われ、彼女をファラオの後宮に入れようとしました。しかし、神はアブラムを見放しませんでした。ファラオの宮廷に疫病が発生し、真実が明らかになると、アブラムとサライは無事解放されました。

考察:アブラハムの物語から学ぶこと

  • 信仰の力: アブラムの物語は、目に見えない未来を信じて行動することの重要性を教えてくれます。私たちも、不確実な状況で信仰に基づいて決断を下す勇気を持つことができるでしょう。
  • 従順の祝福: 神の命令に従うことで、思いもよらない祝福が与えられる可能性があります。アブラムの場合、それは後の世代にまで及ぶ大きな祝福となりました。
  • 人間的な弱さ: エジプトでの出来事が示すように、偉大な信仰者でも時に間違いを犯すことがあります。しかし、神は私たちの弱さを理解し、導いてくださいます。これは私たちに大きな慰めを与えてくれます。
  • 神の約束の確実性: 神がアブラムに与えた約束は、何世紀もかけて成就されていきます。イスラエル民族の誕生や、後のイエス・キリストの到来まで、長い歴史を通じて神の計画が実現していくのです。これは神の言葉の信頼性を示しています。

おわりに

創世記第12章は、一人の人間の信仰を通して、神が人類の歴史をどのように導いていくかを示す素晴らしい章です。アブラム(後のアブラハム)の物語は、私たちに信仰と従順の力を教えてくれます。彼の名前の変更は、神の約束の確実性と、私たちの人生における神の介入の深さを象徴しています。

今日の私たちも、日々の生活の中で神の声に耳を傾け、信仰をもって行動することで、アブラハムのように祝福の源となれるかもしれません。それは、家族や友人、同僚など、身近な人々への小さな親切から始まるのかもしれません。

次回予告

次回は、創世記第13章を学んでいきます。この章では、アブラムと甥のロトが別れる重要な場面が描かれています。豊かになった二人の間で、牧草地をめぐる争いが起こります。その解決策として、アブラムがロトに土地の選択権を与える場面は、彼の寛大さと信仰の深さを示しています。二人の選択とその結果について、深く考察していきましょう。

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